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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)8687号 判決

大阪市生野区林寺六丁目七番二二号

原告

フルタ製菓株式会社

右代表者代表取締役

古田乙彦

右訴訟代理人弁護士

稲葉源三郎

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

辻川正人

東風龍明

片桐浩二

岩坪哲

田辺保雄

名古屋市西区宝地町三一九番地

被告

有限会社デリカフーズ

右代表者代表取締役

日比幹雄

愛知県西春日井郡豊山町大字豊場字八反一二一番地の一

被告

中京漢薬株式会社

右代表者代表取締役

山口正之

右両名訴訟代理人弁護士

大和田安春

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告有限会社デリカフーズは、別紙物件目録(一)記載のチョコレートを販売し、販売のために展示してはならない。

二  被告中京漢薬株式会社は、前項記載のチョコレートを輸入し、販売してはならない。

三  被告らは、一項記載のチョコレートを廃棄せよ。

四  被告有限会社デリカフーズは原告に対し、金三〇二万四〇〇〇円及びこれに対する平成五年九月二一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告中京漢薬株式会社は原告に対し、金一五一万二〇〇〇円及びこれに対する平成五年九月二一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  当事者の営業

1  原告は、各種菓子類の製造販売等を目的とする株式会社であり、日本全国に八つの支店と二四の出張所を設けている(甲第六号証、弁論の全趣旨)。

2  被告有限会社デリカフーズ(以下「被告デリカフーズ」という。)は、菓子販売等を目的とする有限会社であり、被告中京漢薬株式会社(以下「被告中京漢薬」という。)は、食品の輸出入及び国内販売等を目的とする株式会社である(争いがない。)。

二  原告商品の製造販売状況と包装用容器

1  原告商品の製造販売状況

原告は、昭和四二年から別紙物件目録(二)記載のチョコレート菓子(商品名「ハイエイトチョコレート」)を、昭和四四年から別紙物件目録(三)記載のチョコレート菓子(商品名「わなげチョコレート」)を、昭和五〇年から別紙物件目録(四)記載のチョコレート菓子(商品名「チョコバンド」)を製造し、それらを日本全国の約二〇〇〇社の菓子問屋を通じて約五万軒のスーパーマーケット、百貨店及び菓子小売店等の小売業者に販売している(以下、右各チョコレート菓子を商品名に従い順次「ハイエイトチョコレート」「わなげチョコレート」「チョコバンド」といい、これらをまとめて「原告商品」という。なお、原告商品の各商品名は発売後若干の変動があるが、全て現在の商品名により呼称する。)。原告商品の各販売開始時点から平成四年までの間における累計販売数量・販売金額は、〈1〉 ハイエイトチョコレートが約一〇億個・約二二四億円、〈2〉 わなげチョコレートが約一億八〇〇〇万個・約八四億円、〈3〉 チョコバンドが約三三〇〇万個・約二九億円に達している(以上につき甲第一五号証、第二三号証)。

2  原告商品における原告主張の包装用容器の形態

原告商品の外観は、別紙物件目録(二)ないし(四)の各添付写真のとおりであり、その包装用容器は、いずれも「アルミ板の上にチョコレートを一粒ずつ乗せ、その上に透明の樹脂によって包装をしたものであって、上から指で目的物を押すとアルミ板が破れ、容易に目的物を取り出すことができる」という形態のものである(検甲第二号証~第四号証。以下「原告主張の容器形態」という。)。

三  被告商品の輸入販売状況と包装用容器

1  被告商品の輸入販売状況

被告中京漢薬は、平成五年五月、別紙物件目録(一)記載のチョコレート菓子(商品名「フラワーチョコレート」。以下「被告商品」という。)をマレーシアから、コンテナ一本分輸入し、その後同年中に新たにコンテナ三本分輸入し、それらの被告商品をいずれも被告デリカフーズに販売した(証人鎮目邦夫の証言、弁論の全趣旨)。

2  被告商品の包装用容器

被告商品の外観は、別紙物件目録(一)の添付写真のとおりであり(検甲第一号証〔裏面の表記が外国語のもの〕、第五号証〔裏面の表記が日本語のもの〕)、その包装用容器は、「アルミ板の上にチョコレートを一粒ずつ乗せ、その上に透明の樹脂によって包装をしたものであって、上から指で目的物を押すとアルミ板が破れ、容易に目的物を取り出すことができる」という形態において原告商品における原告主張の容器形態と同じである(争いがない。)。

四  原告の請求の概要

原告商品における原告主張の容器形態は、原告の商品であることを示す表示として、日本国内において需要者又は取引者間おいて広く認識され、商品表示性を具備し、周知性を獲得しているところ、被告商品の包装用容器は、右形態において原告商品の包装用容器と同じであり、その使用は原告商品との混同を生じさせ、不正競争行為を構成すると主張して、不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ。)二条一項一号、三条に基づき、被告商品の輸入、販売及び販売のための展示(侵害行為)の停止及び侵害行為組成物たる被告商品の廃棄を請求するとともに、同法四条に基づき、被告らの不正競争行為により原告に生じた損害の賠償を請求するもの。

五  争点

1  原告商品における原告主張の容器形態は商品表示性を具備しているか、周知性を獲得しているか。

2  被告商品の包装用容器の形態と原告商品の包装用容器の形態は類似するか。被告商品と原告商品との間に混同を生じるか。

3  原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるか。

4  被告らの行為が不正競争行為に該当する場合、被告らに過失があったか。それが肯定された場合、被告らが賠償すべき原告に生じた損害の金額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告商品における原告主張の容器形態は商品表示性を具備しているか、周知性を獲得しているか)について

【原告の主張】

原告商品は、前記(第二の二1)のとおり、これまで長期間にわたり大量に製造販売されてきたが、それは原告商品における原告主張の容器形態(前記第二の二2)が特殊なものであったためである。のみならず、原告は、原告商品(ハイエイトチョコレート)の包装用容器について、昭和四二年七月二四日に意匠登録出願をし、その包装方法について、昭和四四年七月九日に特許出願をするとともに、会社案内や商品案内を不特定多数人に配布するなどして原告商品の宣伝広告に努めてきた。その結果、菓子市場において、原告商品と同種のマーブルチョコレート菓子を製造販売している会社は多数あるものの、それらの会社の製造販売商品に用いられている包装用容器の形態は、いずれも原告商品の包装用容器の形態と異なっており、原告商品における原告主張の容器形態は、それ自体で独自性と特異性があるものとして商品表示性を具備し、周知性を獲得するに至っている。

被告らは、原告商品における原告主張の容器形態は、菓子業界において従来から公然と慣用的に使用されてきたものであり、全く新規性がない旨主張するが、被告らがその例証として挙げる株式会社チーリン製菓及びシンセイ食品工業株式会社の販売に係るマーブルチョコレート菓子は、いずれも原告商品における原告主張の容器形態が菓子市場において商品表示性を具備し、周知性を獲得してから後に、右形態を模倣して発売されたものであるから、被告らの主張を裏付ける根拠となり得ない。

【被告らの主張】

原告は、原告商品における原告主張の容器形態は特殊なものであったと主張するが、右形態は、菓子業界において従来から公然と慣用的に使用されてきたものであり、全く新規性がない。すなわち、被告商品の販売開始時点において、原告主張の容器形態と同じ包装用容器を使用したチョコレート菓子が、株式会社チーリン製菓(検乙第一号証〔商品名「カギっこチョコレート」〕、検乙第二号証〔商品名「ウイットナンバーチョコ」〕)とシンセイ食品工業株式会社(検乙第三号証〔商品名「プチプチうらない」〕)から発売されており、原告主張の容器形態は、原告独自の特異性のあるものとはいえない。したがって、右形態は、原告が独占的、排他的に使用してきたものではなく、菓子市場において商品表示性を具備し、周知性を獲得したとは到底いえない。

二  争点2(被告商品の包装用容器の形態と原告商品の包装用容器の形態は類似するか、被告商品と原告商品との間に混同を生じるか)について

【原告の主張】

原告と被告らは、市場において取引先が競合するとともに、被告商品の包装用容器の形態は、商品表示性を具備し周知性を獲得した原告主張の容器形態において原告商品の包装用容器と同じであるから、両者は類似し、混同を生じる。

そうでないとしても、原告商品のうちのわなげチョコレートと被告商品とは、全体形状において前者が◎型、後者が花型であるが、両者の外観形態は次表記載のとおり各部の寸法関係等まで酷似しているから、一般消費者が両者を混同するおそれのあることは明らかである。

原告商品(わなげチョコレート) 被告商品

外径の長さ 一二cm 一一・八cm

内径の長さ 四・六cm 三・五cm

チョコレートの個数 二六個 二二個

三  争点3(原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるか)について

【原告の主張】

被告らの前記(第二の三1)の被告商品の輸入販売行為により、原告の営業上の利益が侵害ざれたことは明らかである。また、被告らは、原告に対し、本件訴訟手続の進行中は新たに被告商品を日本国内に陸揚げしないと約束したにもかかわらず、その後この約束を反故にしたこと、既に被告中京漢薬が被告商品の売買契約を締結済みで未履行の分があることなどを併せ考えると、将来、被告らが再度被告商品の輸入販売等の行為に及び、原告が再び営業上の利益を侵害されるおそれは大きい。

四  争点4(被告らの過失の有無及び損害金額)について

【原告の主張】

1 被告らの過失

被告らは、原告商品における原告主張の容器形態が日本国内において商品表示として周知性を獲得しているだけでなく、原告商品が昭和五〇年頃から日本国内のみならず台湾、シンガポール、マレーシア及び中近東にも輸出され、同地域においても原告商品における原告主張の容器形態が商品表示性を具備し、周知性を獲得していることを知悉しながら、漫然と被告商品をマレーシアから輸入して、日本国内において販売したものであり、被告らの行為が過失に基づくものであることは明白である。

2 損害金額

(一) 被告中京漢薬関係で原告が被った損害 一五一万二〇〇〇円

被告中京漢薬は、平成五年五月から現在までの間に、一箱四〇個入りで一二箱を一カートンとして、〈1〉 一〇〇〇カートン入りの被告商品コンテナ一本分と、〈2〉 六〇〇カートン入りの被告商品コンテナ三本分をマレーシアから輸入し、それらの被告商品をいずれも被告デリカフーズに販売した。〈1〉の被告商品の輸入販売個数の合計は四八万個(四〇×一二×一〇〇〇)、〈2〉の被告商品の輸入販売個数の合計は八六万四〇〇〇個(四〇×一二×六〇〇×三)となる。被告中京漢薬の被告デリカフーズに対する被告商品の販売単価は一個当り約七円五〇銭で、利益率は約一五%である。したがって、被告中京漢薬は、次の算式のとおり、右〈1〉〈2〉の各被告商品の輸入販売行為により少なくとも一五一万二〇〇〇円の利益を得たから、右金額を原告に対し賠償すべき義務がある。

七・五円×(四八万個+八六万四〇〇〇個)×〇・一五=一五一万二〇〇〇円

(二) 被告デリカフーズ関係で原告が被った損害 三〇二万四〇〇〇円

被告デリカフーズは、被告中京漢薬から購入した被告商品を一個当りの販売単価一五円で他者に販売した。利益率は一五%である。したがって、被告デリカフーズは、次の算式のとおり、右被告商品の販売行為により三〇二万四〇〇〇円の利益を得たから、右金額を原告に対し賠償すべき義務がある。

一五円×(四八万個+八六万四〇〇〇個)×〇・一五=三〇二万四〇〇〇円

第四  争点に対する判断

一  争点1(原告商品における原告主張の容器形態は商品表示性を具備しているか、周知性を獲得しているか)について

原告商品がこれまで長年にわたり継続的に菓子の販売市場で大量に製造販売されてきた実績のある商品であることは前記認定(第二の二1)のとおりである。しかしながら、本件全証拠によるも、原告商品における原告主張の容器形態が商品表示性を具備し、周知性を獲得していると認めることはできない。その理由は以下のとおりである。

1  証拠(甲第九号証の1・2、第一〇号証、第一七号証の1~7、第一八号証、第一九号証、第二三号証~第二七号証、検甲第二号証~第四号証、第一〇号証の1~3、第一一号証の1~3、証人古田亀彦、同鈴木崇範の各証言)及び弁論の全趣旨によれば、原告の副社長古田亀彦は、昭和四二年頃、医薬関係の機械業者から、当時、医薬錠剤を取り出しやすく一個あたりの包装スペースも小さくてよいということで医薬錠剤の包装分野で広く用いられていたブリスター包装形式(アルミ箔の台紙の上に錠剤を一個ずつ乗せ、透明の樹脂で覆うもの)を菓子の包装にも応用できないかとの引合いを受け、社内で検討した結果、その採用を決定し、原告は、同年四月頃ブリスター包装機械を購入し、その頃から右機械を使用してハイエイトチョコレートの製造販売を開始するとともに、同年七月二四日、ハイエイトチョコレートの包装用容器について意匠登録出願をした(昭和四四年四月一五日登録、昭和五九年四月一五日存続期間満了により消滅)こと、原告は、また、昭和四四年七月九日、名称を「二次工程で固形化した食べ物の包装方法。」とし、特許請求の範囲を「本文に詳記する如く、透明なフィルムを進行せしめる除中(「途中」の誤記と認める。裁判所注記)フィルムに所望の形状の範囲内になる様凹部を多数凹設し、且つ設凹部内に二次工程で固形化された食べ物を強制的に投入しながらフィルムを進行せしめ、このフィルムを更に進行中フィルム上に薄板を接着して食べ物を密閉した後、フィルムと薄板とで形成される台紙を所望の形状に打ち抜いたことを特徴とする二次工程で固形化した食べ物の包装方法。」とする発明について特許出願をしたこと(その後右出願について特許査定があったことを認あるに足りる証拠はない。)、原告は、以後も更にブリスター包装機械を追加購入し、それらを使用して製造したわなげチョコレート及びチョコバンドを順次発売し現在に至っていることが認められる。

右認定事実によれば、「アルミ板の上にチョコレートを一粒ずつ乗せ、その上に透明の樹脂によって包装をしたものであって、上から指で目的物を押すとアルミ板が破れ、容易に目的物を取り出すことができる」という、原告主張の容器形態は、専ら、商品を取り出しやすく、一個あたりの包装スペースも小さくてよいという、チョコレート菓子の包装用容器が本来具有すべき機能を十分に発揮させることを目的として選択された技術機能的形態であり、その主観的意図からしても直接には商品の出所表示を目的とするものではなかったと認められる。また、客観的に原告商品の包装用容器の具体的な外観形態を見ても、それは従来広く用いられていた医薬錠剤の包装形式をチョコレート菓子の包装形式に置き換え転用したもので、そこに新たな包装用容器の創作として特筆すべき点は特に認められず、原告商品用に変形したところも菓子等に転用する場合に普通に見られる手法による変形にすぎない。さらに、原告商品の包装用容器の中には、数字の8の字型、わなげ型、バンド型というように、全体的な外観形態がかなり異なる三種類のものがあり(別紙物件目録(二)~(四)、検甲第二号証~第四号証)、これら三種類の原告商品の包装用容器のそれぞれの全体的な外観形態に関して、統一したコンセプトに基づく特定のトータルデザインの把握を可能とするような共通形態があるとまでは認められない。そして、前記登録意匠についていえば、美感を全く起させない、単なる技術的効果を得るために創作された技術機能的形態そのものは、実用新案法による保護の対象とはなっても、意匠法における保護の対象にはならないから、その意匠権は、前示のような原告商品(ハイエイトチョコレート)の包装用容器の技術機能的形態に創作的価値を認あて与えられたものではなく、数字の8の字型の全体的な外観形態を中心とするその個別具体的な外観形態に審美的価値を認めて与えられたものであり、そこに右登録意匠の特徴があることは明らかである。したがって、以上の諸事実を総合して考えると、原告商品の製造販売開始時点において、仮にそれまで菓子業界においてブリスター包装形式を用いたチョコレート菓子が実際に商品化されたことがなかったとしても、原告商品における原告主張の容器形態は、チョコレート菓子関係業者の間のみならず、チョコレート菓子に関心を有する需要者の間においても、従来その種商品には見られなかった独自性や特異性のある形態として認識されたものとは認あられず、それ自体で商品の識別機能を有していたとは認められない。

2  進んで、原告商品の製造販売開始後の状況について検討するに、原告は、創業以来、流通関係の業者を対象としては、業界新聞、業界雑誌等に継続的に原告の製造販売商品の広告を掲載し、一般消費者を対象としては、テレビ・ラジオにより原告の製造販売商品の広告を行うとともに、人気タレントと随時専属契約を締結し、あるいは人気アニメ番組のキャラクターの使用権を取得して、それらを商品化するなどして原告会社自体とその製造販売商品のイメージの浸透に努めてきた(甲第二三号証64~70頁)ほか、多数の商品カタログや会社案内を業界内で頒布してきた(甲第一号証~第八号証、第一六号証)ことが認められる。しかしながら、原告が、極あて多彩な商品展開をしている原告の製造販売商品の中で、特に原告商品の、しかもその包装用容器についてアピールすべく、原告主張の容器形態に的を絞って需要者又は取引者に訴える、強力で効果的な宣伝広告活動を展開するなどの企業努力を重ねた形跡は、証拠上格別これを窺うことができない。かえって、原告商品の内容物たる、おはじき状に成形したチョコレート生地をキャンデーや糖類で被覆し、表面を着色料や光沢剤を用いてカラフルに彩色したいわゆるマーブルチョコレート菓子自体は、その種商品の需要者又は取引者が古くから目にしてきたところであり、現在も、我が国の菓子市場において、明治製菓株式会社(検甲第六号証〔商品名「マーブルチョコレート」〕、検甲第七号証〔商品名「マーブルチョコレートいちご」〕)、マスターフーズリミテッド(検甲第八号証〔商品名「m&ms」〕)、及び、カバヤ食品株式会社(検甲第九号証〔商品名「勇者特急マイトガインチョコ〕)等の菓子業者が多種多様な競合商品(マーブルチョコレート菓子)を製造販売しており、そのことは原告も自認しているところである。また、この種商品において、透明の樹脂を使用した包装用容器に商品を収納することが原告商品をもって嚆矢とすることを認めるに足りる証拠もない。しかも、被告らが被告商品の輸入販売を開始した平成五年五月の時点において、右競合商品の中でも、原告主張の容器形態の点において、被告商品が原告商品と類似する程度と同じ程度に原告商品と類似するとみられる商品が、原告とは無関係の株式会社チーリン製菓(検乙第一号証〔商品名「カギっこチョコレート」〕、検乙第二号証〔商品名「ウイットナンバーチョコ」〕)及びシンセイ食品工業株式会社(検乙第三号証〔商品名「プチプチうらない」〕)を出所として販売されていた(弁論の全趣旨)のであり、このように類似商品が存する場合には、通常、当該商品の包装用容器の形態に格別の商品表示力を見いだすのは困難であるといわざるを得ない。そうすると、たとえ原告が原告商品の製造販売を開始した当時に同種の包装用容器を使用した商品が存せず、原告商品が長期間かつ大量に製造販売され、広範に宣伝広告されてきたものであったとしても、遅くとも被告らが被告商品の輸入販売を開始した平成五年五月当時においては、原告商品における原告主張の容器形態により原告商品の出所を他の商品の出所と区別することは困難であったものと認められ、右形態が、二次的に商品表示性を取得し、取引に際しての商品の出所の認識手段となっていたとは認められない。

この点について、原告は、前記株式会社チーリン製菓及びシンセイ食品工業株式会社の販売に係るマーブルチョコレート菓子は、いずれも原告商品における原告主張の容器形態が菓子市場において商品表示性を具備し、周知性を獲得してから後に、右形態を模倣して発売されたものであると主張するが、これを裏付けるに足りる的確な証拠はないから、右原告主張は採用できない。

また、被告商品の輸入販売開始後も、前示の各事情に特段の変更があったことを窺わせる証拠はないから、現在においても、原告商品における原告主張の容器形態は、自他商品の識別力を有しているとは認められない。

3  さちに、この種マーブルチョコレート菓子商品の取引の実情の下における需要者の商品選択の意図についてみるに、この種商品の需要者と考えられる幼児ないし低学年の児童といえども、日常生活において普段からブリスター包装を使用した製品を見慣れているから、指で押してアルミ板を破き目的物(マーブルチョコレート菓子)を取り出すこと自体にさほど強い興味や関心を抱くとは考えられず、右のような技術機能的形態よりも、むしろ素直に見た目の全体的な外観形態の綺麗さや面白さに一番着目して、商品を選択し購買する場合が多いであろうと推認するに難くない。そして、被告商品の輸入販売開始前から、チョコレート菓子又はラムネ菓子等を中心として、透明ないし半透明の樹脂を使用した包装用容器に内容品の全部又は一部を外部から視認できる状態にして収納した菓子商品が相当数存在していたことは、原告頒布の前掲商品ヵタログ及び会社案内(甲第一号証~第八号証)の掲載商品を一瞥しただけでも直ちに了解することができる。そうすると、需要者である幼児等が原告商品を目にした場合、その興味や関心が、専ら取り出しやすさ、包装スペース等に対する配慮に由来する技術機能的形態である原告主張の容器形態に絞って注がれるものとは到底考えられない。むしろ、別紙物件目録(一)~(四)の記載によれば、原、被告商品において、看者である幼児等の注意を強く惹く部分、つまり要部であると認められる部分は、カラフルに彩色を施した多数のマーブルチョコレート菓子を外部から視認できるように透明の樹脂によって一個一個包装し、それらを全体として花型(被告商品)、数字の8の字型、わなげ型、バンド型(以上、原告商品)というように幼児等が日頃から見慣れている物品の形状に擬え、それらを可愛いくて単純な形に図案化して配置した商品全体の外観形態にあるものと認あざるを得ない。右要部において、原告商品と被告商品とは歴然と相違しているから、両商品の全体の外観形態が幼児等に与える印象には一見して顕著な差異があり、幼児等において両商品を異なる商品であると認識するものと認められる。

次に、幼児等に菓子商品を買い与える立場にある保護者についてみるに、この種商品は、小売店舗の店頭において、通常、別紙物件目録(一)~(四)の添付写真の各平面図(上段)に現れている面を表にした状態で、積み重ねあるいは吊り下げて陳列販売されるものと認められる(検甲第一二号証~第一五号証の各1・2、弁論の全趣旨)ところ、原、被告商品の表面には販売業者の名称や商品名は表示されていないこと(検甲第一号証ないし第五号証。但し、検甲第四号証〔チョコバンド〕のバックルに相当する部分には「Furuta CHOCOBAND」の英文字表記があるが、その表示態様は一種装飾の域を出ないものである。)及び原告商品自体の中にも前示のとおり包装用容器の全体的な外観形態を異にする三種類の商品があり、その統一的形態の把握を困難にしていることを考えると、幼児等に比べ格段に豊富な商品知識を有する保護者といえども、類似した外観形態の包装用容器を使用したマーブルチョコレート菓子が多数の業者を出所として販売されていると認識し得るにすぎず、その包装用容器の外観形態自体から、特定の販売業者の商品であると判断して商品を選択し購買しているものとは認められず、まして、原告主張の容器形態が出所表示ないし自他商品識別の機能を果たしているものとは認め難い。

また、取引業者との関係で見ても、原告と直接取引のない業者に関しては、これまで需要者(保護者)について述べたところが殆どそのまま妥当するものと考えられ、他方、原告と直接取引がある業者に関しても、被告らは、被告商品について自社製品であることを明示して営業活動をしているものと認められる(甲第二二号証、第二九号証、弁論の全趣旨)から、取引の相手方は、包装用容器の形態自体から、それが当該会社の商品であると判断して商品を選択し取引しているものとは認められない。したがって、結局、原告商品の包装用容器の外観形態及び原告主張の容器形態は、取引業者との関係でも出所表示ないし自他商品識別の機能を発揮しているものとは認められない。

4  以上の認定判断によれば、原告商品のこれまでの販売期間、販売実績及び広告方法等の諸事情を総合考慮してもなお、原告商品における原告主張の容器形態が商品表示性を具備し、周知性を獲得していると認めるのは困難であるといわざるを得ない。

なお、原告は、原告商品のうちのわなげチョコレートと被告商品とは、全体形状において前者が◎型、後者が花型であるが、両者の外観形態は各部の寸法関係等まで酷似しているから、一般消費者が両者を混同するおそれのあることは明らかである旨主張し、本件において、原告主張の容器形態だけでなく、予備的に、右わなげチョコレートの全体的な外観形態をも周知の商品表示として主張するものと解する余地がないわけではないが、仮に右わなげチョコレートの全体的な外観形態が商品表示性を具備し、周知性を獲得しているとしても、被告商品は、前記3説示のとおり全体的な外観形態において原告商品(わなげチョコレートを含む。)とは歴然と相違しているから、一般消費者が両者を混同するおそれがあるものとは認められない。

二  結論

以上によれば、被告らの被告商品の輸入、販売及び販売のための展示行為は、いずれも不正競争防止法二条一項一号の規定に該当しないから、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がないというべきである。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 小澤一郎 裁判官 本吉弘行)

物件目録(一)

商品名 フラワーチョコレート

外観形態は別紙平面図(上段)及び底面図(下段)の各図面代用写真に記載のとおりであり、包装用容器は、アルミ板の上にチョコレートを一粒ずつ乗せ、その上に透明の樹脂によって包装をしたものであって、上から指で目的物を押すと、アルミ板が破れ、容易に目的物を取り出すことができるものである。

〈省略〉

物件目録(二)

商品名 ハイエイトチョコレート

外観形態は別紙平面図(上段)及び底面図(下段)の各図面代用写真に記載のとおりであり、包装用容器は、アルミ板の上にチョコレートを一粒ずつ乗せ、その上に透明の樹脂によって包装をしたものであって、上から指で目的物を押すと、アルミ板が破れ、容易に目的物を取り出すことができるものである。

〈省略〉

物件目録(三)

商品名 わなげチョコレート

外観形態は別紙平面図(上段)及び底面図(下段)の各図面代用写真に記載のとおりであり、包装用容器は、アルミ板の上にチョコレートを一粒ずつ乗せ、その上に透明の樹脂によって包装をしたものであって、上から指で目的物を押すと、アルミ板が破れ、容易に目的物を取り出すことができるものである。

〈省略〉

物件目録(四)

商品名 チョコバンド

外観形態は別紙平面図(上段)及び底面図(下段)の各図面代用写真に記載のとおりであり、包装用容器は、アルミ板の上にチョコレートを一粒ずつ乗せ、その上に透明の樹脂によって包装をしたものであって、上から指で目的物を押すと、アルミ板が破れ、容易に目的物を取り出すことができるものである。

〈省略〉

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